ビタミンB6は、たんぱく質をつくるアミノ酸の代謝などに関わる水溶性ビタミンです。体内ではPLPやPMPという補酵素になり、アミノ酸の一部を移したり切り離したりする反応を助けます。1
一方、水溶性でも、過剰な補充で手足のしびれなどの神経障害が起こることがあります。必要な栄養素であることと、高用量を摂り続けることの安全性は別の問題です。働き、食品、日本の必要量を確認した上で、上限評価の違いを見ていきます。1
B6は一つの化合物名ではなく、複数の形の総称
ビタミンB6には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミンと、それぞれにリン酸が結びついた形があります。補酵素として働く主な形が、ピリドキサールリン酸(PLP)とピリドキサミンリン酸(PMP)です。補酵素とは、酵素が反応を進めるのを助ける物質を指します。1
日本の食事摂取基準で示すB6量は、ピリドキシン相当量です。化合物の重量と、B6として換算された量を比べるときには、表示の単位と換算の条件を確かめます。1 2
食品中のリン酸が結びついた形は、消化管でリン酸が外れてから吸収されます。植物性食品には糖が結びついた形もあり、利用され方は同じではありません。このため、食品成分表のB6量が、そのまま同量のPLPとして体内へ届くわけではありません。1 3
アミノ酸を使い替える反応と、神経・血液の働きを助ける
食事のたんぱく質は、消化によってアミノ酸などに分けられます。体はそれを材料にしながら、必要に応じてアミノ酸を別の物質へ変えます。B6は、アミノ酸に含まれる窒素の部分であるアミノ基を移す反応などを助けます。1
この働きは、食べたたんぱく質がそのまま筋肉になるという仕組みではありません。体内で材料を組み替え、利用する過程を支えるものです。PLPは、神経細胞どうしで情報を伝える神経伝達物質や、赤血球のヘモグロビンの形成にも関わります。1 3
ただし、神経伝達物質の合成に必要だからといって、十分に摂っている人の気分や認知機能が、追加摂取によってよくなるとは限りません。B6の機能と、特定の症状への補充効果を同じものとして扱わないことが大切です。3
日本の必要量は、血中指標と参照たんぱく質量から算定
日本の2025年版では、血漿中のPLP濃度を、B6の栄養状態を考える指標に使っています。血漿とは血液の液体成分です。報告書は、必要な状態を維持する摂取量と、たんぱく質摂取量の関係を整理しています。1
成人の算定に用いる参照値は、たんぱく質1g当たりB6 0.019mgです。研究で使われたピリドキシンの量から、食事中のB6の利用率を考慮して換算した値です。これに性・年齢別のたんぱく質の推奨量を掛けて推定平均必要量を求め、個人差を考慮して推奨量を算定します。1
ここで掛けているのは、基準をつくるための参照用のたんぱく質量です。本人が食べたたんぱく質のグラム数をそのまま代入して、B6サプリメントの必要量を自動的に決める式ではありません。個人の吸収、病気、製品の併用まで、この算定式で判断できるわけでもありません。
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 1.5 | 1.2 |
| 30〜49歳 | 1.5 | 1.2 |
| 50〜64歳 | 1.5 | 1.2 |
| 65〜74歳 | 1.4 | 1.2 |
| 75歳以上 | 1.4 | 1.2 |
妊婦の推奨量への付加量は+0.2mg/日、授乳婦は+0.3mg/日です。年齢別の値に足す量で、妊娠・授乳に伴う需要や母乳への供給などを考慮しています。成人の表は子どもや乳児にそのまま使いません。1 2
推奨量は習慣的な摂取の指標で、毎日の摂取記録が少し下回るたびに欠乏と診断するための線ではありません。
焼いたさけとバナナを、可食部の重さで比べる
B6は魚、肉、豆類、果物などに含まれます。食品に含まれる量と、実際に食べる量を分けて見てみましょう。3 4 5
| 食品・仮の量 | ビタミンB6量 |
|---|---|
| しろさけ 焼いた後の80g | 約0.46mg 0.57mg/100gから計算 |
| バナナ・生 皮を除いた100g | 0.38mg 可食部100g当たり値 |
焼く前の魚80gと焼いた後の80gは同じ条件ではなく、バナナも皮を含む重さではありません。これらの食品だけで一日の全栄養を満たすと考えたり、成分表の値を個人の吸収量とみなしたりしないことが大切です。1 4 5
日本の上限と欧州の上限は、評価の組み立てが異なる
日本の2025年版は、大量のピリドキシンで生じる感覚神経障害を、耐容上限量の算定の根拠としています。手の神経の病気である手根管症候群の患者に投与した研究などを基に、障害がみられなかった量を体重当たりへ直し、不確実性を考慮して性・年齢別の上限を算定しています。1
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 55 | 45 |
| 30〜49歳 | 60 | 45 |
| 50〜64歳 | 60 | 45 |
| 65〜74歳 | 55 | 45 |
| 75歳以上 | 50 | 40 |
妊娠・授乳期の耐容上限量は設定されていません。上限未設定を、高用量で補充してよいという意味に取ることはできません。1 2
一方、欧州食品安全機関(EFSA)の2023年評価は、成人の上限を12mg/日としています。妊婦・授乳婦も含み、食事とサプリメントを合わせた量、全てのB6の形に適用する評価です。6
EFSAは、人の症例対照研究に症例報告や安全性監視の情報を合わせ、50mg/日を評価の参照点としました。量と発症までの期間の関係、個人差や資料の限界を考慮して不確実性の係数を適用し、犬の研究からの評価とも照らして12mg/日を導いています。これは、50mg未満なら障害が起きないと確認したという意味ではありません。6
二つの値は、同じ試験から単純に割り算を変えただけの違いではありません。採用する資料と不確実性の扱いが異なります。また、EFSAの上限は栄養学的なリスク評価で、日本の製品規制上の上限を示すものではありません。どちらか大きい値を選び、そこまでは全員に安全と考えることはできません。1 6
複数製品のB6を合わせ、しびれを不足と決めつけない
豪州の医薬品規制当局TGAは、B6を含む製品による末梢神経障害を注意喚起しています。50mg/日未満や、複数の製品を使っていた人の報告もあり、誰にでも当てはまる最小の発症量や使用期間は特定されていません。7
ここでの根拠は安全性監視の報告で、服用者全体の人数を把握した比較試験ではありません。何%の人に起こるかを算出したり、個々の報告全ての因果関係を確定したりするものではありませんが、製品の重複や個人差を見落とさないための情報です。7
B群製品やマルチビタミンだけでなく、マグネシウムや亜鉛を主成分にした製品にもB6が入ることがあります。確認する際は、製品名だけで判断せず、全ての製品のB6量を一日当たりの実際の使用量で合わせます。特定の形を「活性型」と表示していても、高用量での神経障害の心配がなくなると決めつけられません。6 7
手足のしびれ、灼けるような感覚、感覚の鈍さが出たときは、「ビタミン不足だから増やす」と考えないでください。B6含有サプリメントを使っている場合は使用を中止し、製品名と量を伝えて早めに医療機関へ相談します。処方薬は、自己判断で変更せず処方元へ確認します。7
B6の不足も皮膚、血液、神経などに影響しますが、症状だけでは原因を決められません。通常の食品から必要量を確保する話と、高用量の製品で症状を治そうとする話を分けて考えることが、B6では特に重要です。1 3