ナトリウムは、体の水分の量や神経の働きを支えるミネラルです。体内では主に、水に溶けて電気を帯びたナトリウムイオン(Na⁺)として働きます。こうした成分を電解質と呼びます。1 2
一方、日本の通常の食生活では、不足よりも摂り過ぎへの対応が重要です。「必要な成分なのに、なぜ減塩するのか」を理解するには、体内の役割、食べた量、血液検査の濃度を分けて考える必要があります。1
ナトリウムは、細胞の外にある水分の量を支える
ナトリウムは、血液の液体成分や細胞と細胞の間の液体など、細胞外液に多い陽イオンです。陽イオンとは、プラスの電気を帯びた粒子を指します。細胞内に多いカリウムとともに、細胞が働く環境を維持しています。1 2
水分の動きには、水に溶けた粒子の濃さが関わります。ナトリウムはこの浸透圧や細胞外液の量、体液の酸性・アルカリ性の釣り合いを保つ上で重要です。神経の信号や正常な細胞機能にも必要で、胆汁・膵液・腸液の材料にもなります。1 2
ただし、必要な働きがあることから、通常の食事へ塩を追加する利益は導けません。体の調節に必要な量と、習慣的に多く摂ることで生じる負担は、同じ問いではありません。
小腸で吸収し、腎臓で戻す量と捨てる量を調節する
摂ったナトリウムの大部分は小腸から吸収されます。小腸のうち空腸では、糖類の存在がナトリウムの吸収を促します。吸収の仕組みは腸の部位によって異なり、全てが糖の存在だけで決まるわけではありません。1
体内に入った後は、腎臓が排泄を調節します。腎臓で一度ろ過されたナトリウムの大部分を体へ戻し、残りを尿へ出すことで、体内の釣り合いを保ちます。アルドステロンなどのホルモンも、戻す量の調節に関わります。1
- 食事から取り込む食塩や、それ以外のナトリウム化合物を食品とともに摂る。
- 小腸から吸収する吸収されたナトリウムが、体液や細胞の働きに関わる。
- 腎臓で排泄を調節するろ過した分を再吸収し、体に残す量と尿に出す量を調節する。
報告書243ページの過程を整理しました。通常は尿が主な排泄経路ですが、汗や便からも失います。高温の環境や長時間の運動で大量に汗をかく条件は、日常の食事の基準だけでは扱えません。「汗をかくから普段から多めに塩を摂る」とも言い換えられません。1
食塩相当量は、ナトリウムを同じ物差しへ換算した値
食塩の化学名は塩化ナトリウムです。食塩の重さには塩化物の分も含まれるため、ナトリウム1gと食塩1gは同じではありません。1
食塩相当量は、食品に含まれるナトリウムを、食塩に換算して表した値です。ナトリウムをmgで読んだ場合は、次のように計算します。1
食塩相当量(g)
=ナトリウム(mg)×2.54÷1,000
例えば、ナトリウム400mgなら食塩相当量は1.016g、概算で約1.0gです。換算しているだけなので、実際に食塩をその重さだけ加えたという意味ではありません。食品に元から含まれるナトリウムや、食塩以外のナトリウム化合物も換算の対象になります。1 2
600mgの必要量と、食塩7.5g未満の目標量は目的が違う
日本の2025年版では、18歳以上の男女の推定平均必要量をナトリウム600mg/日、食塩相当量で1.5g/日としています。これは、尿・便・皮膚などから避けられずに失う量を補うという考えから算定した参考値です。1 3
報告書自身が、算定に用いた古い研究の精度への懸念を挙げています。通常の日本人の摂取量はこの値より多く、活用上の意味は乏しいとして、推奨量も設定していません。600mgを「毎日ここまで減らすべき最適量」や、「今の食事へ足す量」として読むことはできません。1
| 指標 | 値と目的 |
|---|---|
| 推定平均 必要量 | ナトリウム600mg/日 不可避の損失を補うための参考値。食塩相当量1.5g/日 |
| 男性の 目標量 | 食塩相当量7.5g/日未満 生活習慣病の発症予防を目的とする値 |
| 女性の 目標量 | 食塩相当量6.5g/日未満 生活習慣病の発症予防を目的とする値 |
日本の目標量は、WHOの成人の推奨である食塩5g/日未満と、日本の摂取量の中央値との間を取り、実行可能性を考慮して設定しています。必須だから7.5gを摂る必要がある、7.5g未満なら全員に問題がない、という数字ではありません。1 2
耐容上限量を設定していないのも、過剰に摂ってよいという意味ではなく、生活習慣病予防の目標量で対応するためです。日本とWHOの値の違い、食事での確認方法は食塩の目安の記事で詳しく扱っています。1
塩を加えなくても、食品にはナトリウムがある
ナトリウムは食塩や調味料だけに含まれる成分ではありません。次の例は、食品自体の値を仮の可食部重量に換算したものです。2 4 5
| 食品・仮の量 | ナトリウムと換算値 |
|---|---|
| 普通牛乳 200g | 82mg 食塩相当量 約0.21g |
| 全卵・ゆで 可食部50g | 70mg 食塩相当量 約0.18g |
計算元は可食部100g当たり、牛乳41mg、ゆで卵140mgです。牛乳は200mLではなく200g、卵は殻を除いた調理後50gで比べています。成分表の食塩相当量の丸め値を再計算したものではなく、ナトリウム値から換算しているため、表示の丸め方で差が生じます。4 5
この二品だけで一日の量を判断する表ではありません。実際の食事では、主食、おかず、調味料などを合わせて評価します。食品自体にある分も含めて考えるために、食塩相当量という共通の物差しを使います。
血液のナトリウム値は、その日の塩の量を直接示さない
血液検査で測るのは、血液中のナトリウムの濃度です。NLMの検査解説では、低い値には、嘔吐・下痢による喪失だけでなく、体に水分が余分に残って薄まる状態なども関わるとしています。腎機能や薬などの影響も受けるため、他の検査や体調と合わせて解釈します。6
したがって、低い値を見て食塩を増やす、高い値を見て自己判断で水分や薬を変える、といった対処はできません。検査を受けている人は、その理由と結果に基づく説明を受ける必要があります。6
一方、厚労省の報告書が食事摂取量の推定で扱っているのは、24時間に尿へ出たナトリウムの量です。一度の採血で測る濃度とは別の指標で、随時尿からの推定にも信頼性の課題があります。1
減塩の量は、体調や食事全体と合わせて考える
2025年版は、高血圧や慢性腎臓病の重症化予防では、男女とも食塩相当量6.0g/日未満という別の値を示しています。これを一般向けの表だけで個人の指示へ置き換えず、治療中は担当者と確認します。1 3
また、高齢者では極端な制限により食事量そのものが減り、エネルギーやたんぱく質の不足につながる場合があるとして、健康状態と摂食量を考慮するよう求めています。1
ナトリウムは体液や細胞に必要ですが、通常の食事で追加の補給を促す成分ではありません。必要量・目標量・血中濃度の役割を分け、普段の食事量と体調を合わせて扱うことが大切です。