パントテン酸はビタミンB5とも呼ばれ、補酵素A(CoA)やアシルキャリアたんぱく質(ACP)の構成成分になる水溶性ビタミンです。これらは、脂肪酸の分解・合成などで、分子の一部を結び付けたり受け渡したりする役割を担います。1
多様な食品に含まれ、人での欠乏症はまれです。一方、必要量を定める資料が十分でないため、日本の2025年版は「推奨量」ではなく、食事摂取量を基にした「目安量」を使っています。何を助ける成分なのかと、数字の確かさを分けて見ていきます。1 2
CoAとACPは、代謝の途中で分子の一部を受け渡す
パントテン酸は、同じ栄養上の活性を持つ化合物の総称でもあります。体内で重要なのが、パントテン酸を含む部分が組み込まれたCoAやACPです。1
その部分は、アシル基と呼ばれる分子のまとまりと結びつきます。アシル基は、脂肪酸などの反応に現れる化学的な部分です。CoAに結びついたものをアシルCoAと呼び、アセチルCoAもその一種です。1
アシルCoAは、クエン酸回路、脂肪酸を段階的に分解するβ酸化、脂肪酸やコレステロールを合成する経路などに関わります。ACPは、脂肪酸をつくる過程で材料を保持する役割を担います。パントテン酸は、こうした構造の一部になることで反応を支えています。1
- パントテン酸が構造の一部になるCoAやACPに含まれる、分子と結びつくための部分を構成する。
- アシル基と結びつく脂肪酸などの代謝で必要な、分子の一部を保持する。
- 次の反応へつなぐ分解・合成の経路で、その部分を受け渡しながら代謝を進める。
報告書213ページの機能を整理したものです。これはパントテン酸だけが全ての反応を動かすという意味ではありません。また、脂肪酸の分解と合成の両方に関わるため、「脂質代謝に必要」という説明を、体脂肪が減る効能へ結びつけることもできません。
食品中のCoAを、そのまま体のCoAとして取り込むわけではない
食品には、遊離したパントテン酸のほか、CoA、アシルCoA、ACPに組み込まれた形などが含まれます。食品の加工・調理や胃の環境を経てたんぱく質から離れ、腸内の酵素で分解され、主にパントテン酸として吸収されます。1
つまり、食品のCoAが、そのまま細胞へ届く仕組みではありません。消化して材料を取り込み、体内で利用する形へ組み直します。食品の量と、体内で働く補酵素の量は、同じ数字では表せません。
消化や利用は食品の状態や食事の組み合わせにも左右されます。報告書に載る平均的な食事の相対利用率を、全ての食品・個人に共通する吸収率として当てはめることはできません。1
目安量は、欠乏を起こさずに摂っていた食事の量から決まる
日本の2025年版では、パントテン酸の欠乏を実験的に再現して必要量を求めることが難しく、推定平均必要量や推奨量を設定していません。代わりに、食事調査の摂取量から目安量を定めています。1
成人では、2018年・2019年の国民健康・栄養調査における、性・年齢別摂取量の中央値を使っています。中央値は、摂取量を順に並べたときに中央に位置する値です。他の日本人の食事調査も参照し、その程度の摂取で欠乏が報告されていないことを確認しています。1
| 区分 | 目安量 |
|---|---|
| 18歳以上 男性 | 6mg/日 成人の各年齢区分で共通 |
| 18歳以上 女性 | 5mg/日 成人の各年齢区分で共通 |
| 妊婦 | 5mg/日 |
| 授乳婦 | 6mg/日 |
妊婦の5mg、授乳婦の6mgは、年齢別の値に足す付加量ではなく、目安量そのものです。日本人の妊婦・授乳婦の摂取量データを再計算し、それぞれの中央値を丸めて設定しています。1 2
目安量を下回った一日があるだけで、不足や欠乏があると判定することはできません。必要量の分布を調べてつくった値ではないので、集団で「何%が足りないか」をこの値だけから算出するための基準にもなりません。
納豆とゆで卵を、可食部の重さへ直してみる
パントテン酸は幅広い食品に含まれます。次の表は、二つの食品を仮の量で比べたもので、この組み合わせを全員に勧める献立ではありません。1 3 4
| 食品・仮の量 | パントテン酸量 |
|---|---|
| 糸引き納豆 40g | 約1.45mg 3.63mg/100gから計算 |
| 全卵・ゆで 可食部50g | 0.59mg 1.18mg/100gから計算 |
卵は殻を除いた調理後の50gで、全ての卵一個がこの重さという意味ではありません。成分表の値には食品の変動があり、計算値は本人の吸収量の実測値でもありません。他のおかずや主食などからも摂るため、この二品だけで一日の量を評価しないことが大切です。1 3 4
欠乏がまれでも、症状から成分を決めつけない
パントテン酸が不足すると、細胞内のCoAが低下し、手足のしびれや灼熱感、疲労、食欲不振などの症状が起こるとされています。ただし、これらはパントテン酸に特有の症状ではなく、日常の疲れやしびれを見て、この成分の不足と決めることはできません。1
幅広い食品に含まれることは、通常の食生活で欠乏がまれである理由の一つです。一方、食事が十分に摂れない状態や、病気などがある個人について、食事の概算だけで栄養状態を確定することもできません。症状が続く場合は、原因を調べる評価が必要です。
上限も疾病予防の量も、十分な資料がなく設定されていない
2025年版では、パントテン酸の耐容上限量を定めるだけの報告がないため、上限は設定されていません。複数のビタミンを同時に大量投与した試験で消化器症状が報告されていても、そこからパントテン酸単独の影響や上限を切り分けることはできません。1
また、生活習慣病の発症や重症化を抑えるための目標量も設定されていません。代謝に必要な成分であることから、十分な人に追加する利益を推定することはできません。1
パントテン酸では、CoA・ACPを構成する機能はわかっている一方、個人の厳密な必要量や高用量補充の利益には限界があるという区別が大切です。目安量や上限未設定を、症状の自己治療のために量を増やす根拠にしないようにします。