ビタミンAは、目が光を感じる働きや、皮膚・粘膜をつくる細胞の分化などを支える脂溶性ビタミンです。食品では、動物性食品に含まれるレチノールなどと、植物性食品に含まれるβカロテンなどを分けて考えると、量の数え方と過剰摂取の違いが分かります。1
にんじんのβカロテンも、体内でビタミンAに変換される材料になります。ただし、レチノールと同じ重量が同じ働きをするわけではありません。日本の基準で使う「レチノール活性当量」という単位から、必要量と食品の関係を見ていきます。1
レチノールとβカロテンは、同じ成分ではない
ビタミンAには、レチノール、レチナール、レチノイン酸などの形があります。これらは化学構造の一部が異なるレチノイドです。動物性食品に含まれるビタミンAは、レチノールに脂肪酸が結びついた形などで存在し、消化・吸収を経て利用されます。1
一方、βカロテン、αカロテン、βクリプトキサンチンなどは、体内でビタミンAへ変換されるプロビタミンAカロテノイドです。「プロビタミン」は、ビタミンになる前の材料という意味です。全てのカロテノイドがビタミンAになるわけではなく、例えばルテインはこの材料には含まれません。1 2
日本の食事摂取基準は、レチノールだけでなく、こうした材料から得るビタミンAの活性も含めて量を数えます。ただし、過剰摂取の上限を考えるときは対象が異なります。この違いが、野菜とレチノール含有サプリメントを同じように扱えない理由の一つです。1
視覚、皮膚・粘膜、細胞の分化を支える
目では、レチナールが光を受け取る仕組みに関わります。ビタミンAはまた、細胞がそれぞれの役割を持つ細胞へ変わる「分化」、皮膚・粘膜などの組織の維持、成長や免疫機能にも関係します。1 2
これらは必要性の説明であり、十分に摂っている人がさらに追加すれば、視力が上がる、免疫が強まるという意味ではありません。視力の変化や皮膚の症状にも多くの原因があるため、症状だけでビタミンA不足と決めつけないことが大切です。
吸収されたビタミンAは、主に肝臓に貯蔵されます。この貯蔵があるため、今日食べた量だけで今日の栄養状態が決まるわけではありません。また、血中レチノール濃度は体内の貯蔵量が低下しても一定に保たれやすく、貯蔵量を敏感に表す指標ではありません。1
RAEは、違う成分の活性をそろえる単位
日本の基準で使うレチノール活性当量(RAE)は、レチノールとプロビタミンAカロテノイドの働きを、共通の物差しで表す方法です。単位はµgRAEで、µgは100万分の1gを表します。1
| 食品中の成分量 | 換算後の活性 |
|---|---|
| レチノール1µg | 1µgRAE |
| βカロテン12µg | 1µgRAE |
| αカロテン24µg | 1µgRAE |
| βクリプトキサンチン 24µg | 1µgRAE |
食事全体では、レチノール量に、βカロテン量を12で割った値、αカロテンやβクリプトキサンチン量を24で割った値などを足してRAEを求めます。この換算は、食品からの吸収や体内変換を踏まえた基準上の計算です。個人の吸収をその都度測った値ではありません。1
油に溶かしたβカロテンの製剤では、食品と異なる換算が使われます。上の表をそのまま濃縮製品の用量決めに使うことはできません。製品表示で、成分名、RAE・µgなどの単位、他製品との重複を確認する必要があります。1
日本の推奨量は、肝臓の貯蔵を保つ考え方から決める
日本の2025年版では、肝臓の最低貯蔵量を維持するために必要な量を推定し、推定平均必要量を算定しています。さらに必要量の個人差を考慮して、成人ではその1.4倍を推奨量としています。視力をさらに高めるための量や、がん予防のための量ではありません。1
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 850 | 650 |
| 30〜49歳 | 900 | 700 |
| 50〜64歳 | 900 | 700 |
| 65〜74歳 | 850 | 700 |
| 75歳以上 | 800 | 650 |
妊娠初期・中期は推奨量への付加量が0、妊娠後期は+80µgRAE/日、授乳婦は+450µgRAE/日です。こちらはn-3・n-6系の妊婦・授乳婦の目安量とは異なり、年齢別の値に足す量を示します。「付加0」は、ビタミンA自体が不要という意味ではありません。1 3
推奨量は、習慣的な摂取の判断に使う集団の基準です。一日の量が少なかったことだけで欠乏と診断したり、複数日の不足分を一度に高用量の製品で取り戻したりするための値ではありません。
にんじんと牛乳は、違う形でビタミンAを含む
植物性食品では、緑黄色野菜などのプロビタミンAカロテノイドが供給源になります。動物性食品では、乳製品・卵・レバーなどにレチノール等が含まれます。以下は形の違いを示す計算例で、単独の食品だけで一日の量を満たす提案ではありません。1 2
| 食品・仮の量 | ビタミンAの活性 |
|---|---|
| にんじん 皮なし・生50g | 315µgRAE 主にカロテノイド由来。630µgRAE/100gから計算。 |
| 普通牛乳200g | 76µgRAE レチノール由来。38µgRAE/100gから計算。 |
牛乳は200mLではなく重さ200gです。にんじんの315µgRAEは、315µgのレチノールが入っているという意味ではありません。同じRAEで足し合わせられても、食品中の成分の形や、上限での扱いは異なります。4 5
上限2,700µgRAEは、レチノール等を対象とする
日本の成人の耐容上限量は、男女とも2,700µgRAE/日です。対象はレチノールなどのレチノイドで、食品中のβカロテンなどプロビタミンAカロテノイドを含めた総RAEではありません。食品・サプリメントなどを通じたレチノイドの摂取を合わせて考えます。1 3
この上限は、肝臓への有害影響が認められた量から不確実性を考慮して設定されています。推奨量に上乗せしてよい量でも、摂るべき目標でもありません。高用量のサプリメントのほか、動物の肝臓を大量に食べることなどでも、過剰摂取が報告されています。1
妊娠中のレチノイドの過剰摂取は、胎児の形態異常につながるおそれがあります。妊娠している、または妊娠の可能性がある人は、レチノール等を含む高用量製品を自己判断で追加しないでください。授乳中や、ビタミンA由来の医薬品を使っている場合も、成分を重ねる前に医師・薬剤師へ確認します。1 2
野菜のβカロテンと、高用量製品の安全性も分ける
プロビタミンAは体内での変換が調節されるため、レチノイドと同じ過剰症を起こすとは考えられていません。ただし、日本で耐容上限量が設定されていないことは、濃縮したβカロテン製品を誰でも高用量で摂ってよいという意味ではありません。1
NIH資料の公的日本語訳では、喫煙者・元喫煙者やアスベスト曝露のある人で、高用量βカロテンサプリメントに肺がんや死亡のリスク上昇が報告されたことを説明しています。これは、野菜に含まれる通常の食品成分の摂り方と同じ条件ではありません。本稿では個々の試験用量を個人の安全境界に転用しません。2
ビタミンAを含む食品を食べること、欠乏を治療すること、眼の病気のために特定の組み合わせの製剤を使うことも、目的と条件が違います。日常の食品の説明から、自己判断の治療用サプリメントへ話を飛ばさないことが大切です。2
見るべき点は、成分の形、RAEで表した量、レチノイドの重複です。必要な栄養素であることを押さえつつ、量が多いほどよいとは考えず、食品と濃縮製品を分けて判断します。