ナイアシンは、体内でNAD・NADPという補酵素になり、エネルギー代謝などに関わる水溶性ビタミンです。ニコチン酸やニコチンアミドなどを含み、食事のたんぱく質に含まれるトリプトファンからも体内でつくられます。1
そのため、日本の摂取基準は、食品に含まれるナイアシンだけでなく、トリプトファンから供給される分を合わせた「ナイアシン当量」で示されます。まずは、この数え方と体内での役割を理解することが、食品や製品の表示を読む手がかりになります。1 2
NAD・NADPは、電子の受け渡しを助ける
ナイアシンは、狭い意味ではニコチン酸とニコチンアミド、広い意味ではナイアシンとしての活性を持つ化合物の総称です。食品にはNADやNADPとしても含まれ、調理・加工や消化を経て分解され、取り込まれます。1
体内では、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とNADP(そのリン酸が結びついた形)が補酵素として働きます。補酵素は、酵素が化学反応を進めるときの助け役です。NADやNADPは電子を受け取ったり渡したりして、酸化還元反応を支えます。1
関わる経路には、糖を分解する解糖系、エネルギーを得る過程のクエン酸回路や電子伝達系、脂肪酸の分解・合成などがあります。またNADは、DNAの修復などに関係する反応でも材料として使われます。1
これらは細胞が働くために必要な機能です。ただし、機能が必要なことから、十分に摂っている人がナイアシンを増やせば代謝が速まり、老化が遅くなるという結論までは導けません。栄養素としての役割と、追加摂取の効果は別に評価する必要があります。
mgNEは、食品のナイアシンとトリプトファンを合わせた単位
トリプトファンは、たんぱく質をつくる必須アミノ酸の一つです。肝臓では、その一部からニコチンアミドがつくられます。日本の基準は、重量でトリプトファン60mgをナイアシン1mgに相当するものとして数えています。1
- 食事のナイアシンを数える食品に含まれるナイアシンの量をmgで把握する。
- トリプトファンの寄与を換算する食事のトリプトファン量をmgで把握し、60で割る。
- 二つを合わせるナイアシン当量(mgNE)=
ナイアシン(mg)+
トリプトファン(mg)÷60。
2025年版報告書194ページの換算を整理したものです。例えば、ナイアシン1mgとトリプトファン60mgがあれば、計算上は2mgNEです。ただし、この換算は食事を評価するための基準であり、本人の肝臓でその通りの量がつくられたと実測したことにはなりません。1
食品成分表には「ナイアシン」と「ナイアシン当量」が別に載ります。推奨量のmgNEと比べるときに、ナイアシンのmgだけを見て不足と決めつけないことが大切です。一方、当量の値にはトリプトファンの寄与がすでに含まれるので、同じ寄与をもう一度足すと二重計上になります。1 2
日本の必要量は、欠乏とエネルギー消費の関係から算定
ナイアシンが大きく不足すると、ペラグラという欠乏症が起こり、皮膚炎、下痢、精神神経症状などがみられます。2025年版の必要量は、欠乏試験で得られた、ペラグラを避けるための最小摂取量と代謝産物の尿中排泄の関係を基にしています。1
算定の参照値は、エネルギー1,000kcal当たり4.8mgNEです。性・年齢別の推定エネルギー必要量を掛けて推定平均必要量を求め、個人差を考慮した係数1.2を用いて推奨量を算定しています。表では身体活動レベル「ふつう」のエネルギー必要量を用います。1 2
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 15 | 11 |
| 30〜49歳 | 16 | 12 |
| 50〜64歳 | 15 | 11 |
| 65〜74歳 | 14 | 11 |
| 75歳以上 | 13 | 10 |
妊婦の付加量は+0mgNE/日、授乳婦の推奨量への付加量は+3mgNE/日です。妊娠期にはトリプトファンからの転換率が高まることを考慮し、付加量を設けていません。授乳期は母乳への供給分などを補う考え方で、年齢別の値に3を足します。1 2
これは妊娠・授乳中の全栄養を特定の食品だけで満たせるという意味ではありません。また、推奨量は習慣的な食事の基準です。一日の計算が少し下回ることだけで欠乏と診断したり、皮膚や気分の症状をナイアシン不足と決めたりすることはできません。
食品のナイアシン量と当量を並べて見る
ナイアシンの吸収や利用は、食品中の形や、同時に食べるものの影響を受けます。例えば、穀類では消化されにくい結合型のニコチン酸もあります。全ての食品で同じ割合が吸収されると考えないことが大切です。1
| 食品・量 | ナイアシン | 当量 |
|---|---|---|
| しろさけ 焼いた後80g | 約7.0mg | 11.2mgNE |
| 糸引き 納豆40g | 0.44mg | 約2.1mgNE |
計算元の100g当たり値は、しろさけがナイアシン8.7mg・当量14.0mgNE、納豆がナイアシン1.1mg・当量5.2mgNEです。しろさけは生の重量ではなく焼いた後の重さ、納豆は別添のたれなどを含まない食品の値です。表の当量は食品成分表の値から計算しており、個人の吸収量や体内での変換量を直接示すものではありません。3 4
上限は、通常の食品以外に含まれる二つの化合物で異なる
日本の耐容上限量は、強化食品やサプリメント由来のニコチン酸・ニコチンアミドについて定められています。通常の食品を含むmgNEの推奨量と、同じ数字の延長として比べるものではありません。1
大量投与の報告では、消化器症状や肝臓への障害が確認されています。日本の基準は、それぞれの化合物で障害がみられなかった量に、不確実性を考慮する係数を適用して上限を算定しています。二つの化合物は、体内でナイアシンとして働く点が共通でも、高用量での作用や上限が同じではありません。1
| 化合物 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| ニコチン アミド | 350 | 250 |
| ニコチン 酸 | 85 | 65 |
妊娠・授乳期の耐容上限量は、十分な報告がないため設定されていません。また、日本の上限は、一過性の軽い皮膚発赤を算定の指標にしていません。表の上限未満なら、赤みやほてりが出ないという保証にはなりません。1 2
表示に「ナイアシン」としか書かれていない製品を、化合物の確認なしに表へ当てはめたり、複数の製品の量を見落としたりしないことが大切です。高用量を使う場合は、持病や薬も含めた評価が必要で、自己判断で治療量へ増やすための表ではありません。
血中の脂質が変わることと、病気の発症が減ることは別
ニコチン酸を薬理的な量で用いる研究と、食事からナイアシンの必要量を確保する話は分けます。2017年のCochrane総説は、心血管疾患がある人やリスクのある成人を対象とした、6か月以上の無作為化比較試験23件、計39,195人をまとめました。用量の中央値は一日2gで、通常の食品から摂る量とは大きく異なります。5
総説では、死亡や心血管イベントを減らす明確な利益は示されず、有害事象による中止は増えていました。これはナイアシンを食べない方がよいという意味でも、特定の人の処方を自己中断してよいという意味でもありません。血中脂質という検査指標の変化だけで、患者にとっての利益を決められないことを示す例です。5
総説の検索は2016年までで、多くの対象者には既存の疾患や他の治療があります。通常の食生活の人や、ナイアシン関連の全化合物へ結果を広げることはできません。総説著者は利益相反なしと申告し、公的な研究支援を受けていますが、含まれた試験には製造企業の資金が関わるものもあります。5
日本の2025年版も、疾病予防や重症化予防を目的とした量を設定していません。食事の当量で必要量を考え、製品では化合物と使用量を確認する。この二つの読み分けが、ナイアシンでは重要です。1