ビタミンB1はチアミンとも呼ばれる水溶性ビタミンで、糖質などの代謝に関わる酵素を助けます。エネルギーを得る反応に必要ですが、B1自体をカロリー源として数えるものではありません。1
必要量がエネルギー消費量と関係することも、この役割によります。ただし、十分に摂っている人が追加すれば、その分だけ活力が増すという意味ではありません。補酵素としての働きと、日本の2025年版基準の算定方法から見ていきます。1
チアミンを取り込み、ThDPという補酵素にする
ビタミンB1は、B1活性を持つ化合物の総称です。食品には遊離したチアミンのほか、リン酸が一つ、二つ、三つ結びついた形もあります。消化管では、これらがチアミンに分解されて吸収されます。1
体内で重要なのが、チアミンにリン酸が二つ結びついたチアミン二リン酸(ThDP)です。チアミンピロリン酸、ThPPなどとも呼ばれます。これは、酵素が化学反応を進めるときに必要とする助け役、補酵素として機能します。1
日本の食事摂取基準と食品成分表のB1量は、チアミン塩化物塩酸塩相当量で示されます。化合物の形が違えば同じ重さの意味も変わるため、医薬品の成分重量と、食事の基準を何の確認もなく比べることはできません。1 2
糖質だけでなく、細胞の複数の代謝経路に関わる
ThDPは、糖からエネルギーを得る過程、クエン酸回路、分枝アミノ酸の代謝などに関係します。クエン酸回路は、細胞がエネルギーを得るために物質を順に変えていく一連の反応です。分枝アミノ酸は、たんぱく質をつくるアミノ酸の一群を指します。1
また、糖の代謝経路の一つであるペントースリン酸経路では、トランスケトラーゼという酵素の働きを助けます。この酵素の反応が、後で説明する必要量の算定にも使われています。1
B1が不足すると、関係する酵素が十分に働けなくなり、代謝に支障が出ます。しかし、そこから「B1を余分に増やせば、代謝の速度やエネルギー産生が上がり続ける」とは言えません。栄養素が必要なことと、すでに十分な人に追加する利益は分けて考えます。
2025年版の必要量は、赤血球の酵素の反応から算定
日本の2025年版では、赤血球のトランスケトラーゼにThDPを加えたとき、酵素活性がどの程度上がるかという生体指標を用いています。体内のB1が不足していれば、補酵素の追加によって酵素の働きが大きく上がる、という考え方です。1
報告書は、欠乏させた後に回復させる試験などを基に、エネルギー1,000kcal当たり0.30mgを推定平均必要量の算定の参照値としています。これは1日の推奨量そのものでも、各個人の欠乏を判定する数値でもありません。1
- 生体指標から参照値を決める赤血球の酵素活性とB1摂取量の関係を使い、0.30mg/1,000kcalを参照値とする。
- エネルギー必要量に合わせる性・年齢別の推定エネルギー必要量を掛け、推定平均必要量を算定する。
- 必要量の個人差を考慮する比較的少人数の試験に基づく不確実性を考慮し、成人では推定平均必要量の1.4倍を基に推奨量を算定する。
2025年版報告書186ページをもとにした整理です。基準表では身体活動レベル「ふつう」のエネルギー必要量を使っています。運動や仕事で消費量が大きい人は、この表が個人に必要な量をそのまま示すわけではありません。1 2
尿中へのB1排泄量なども栄養状態の研究で使われますが、尿に出た量は体内全体の貯蔵や機能を一つで表すものではありません。本稿の推奨量の根拠は、現行の報告書が採用した赤血球の酵素指標です。1
成人の推奨量と、妊娠・授乳期の付加量
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 18〜29歳 | 1.1 | 0.8 |
| 30〜49歳 | 1.2 | 0.9 |
| 50〜64歳 | 1.1 | 0.8 |
| 65〜74歳 | 1.0 | 0.8 |
| 75歳以上 | 1.0 | 0.7 |
妊婦・授乳婦の推奨量への付加量は、いずれも+0.2mg/日です。これは年齢別の値に足す量で、0.2mgだけ摂ればよいという意味ではありません。妊娠ではエネルギー要求の増加、授乳では母乳を通じた供給などを考慮して算定しています。1 2
推奨量は習慣的な摂取を考える指標です。一日の記録が下回っただけで欠乏と診断したり、逆に一日多く摂ったことでその後の欠乏を心配しなくてよいと考えたりするための値ではありません。
食品は、精製や調理後の状態まで確かめる
B1は、豚肉、未精製の穀類、豆類などに含まれます。精製の程度や調理・加工によって、食品に含まれる量は変わります。B1は長時間の加熱などで損失が起こりやすい成分でもあります。3
| 食品・仮の量 | ビタミンB1量 |
|---|---|
| 玄米ごはん 150g | 0.24mg 0.16mg/100gから計算 |
| 精白米ごはん うるち米150g | 0.03mg 0.02mg/100gから計算 |
この二つの食品を比べた数字は、食事全体のB1量や、個人の吸収量を示すものではありません。主食以外のおかずからも摂取します。精白米を食べること自体を欠乏の診断と結びつけたり、玄米だけで一日の栄養を満たすと考えたりしないことが大切です。3 4 5
食品中のB1は消化を経て取り込まれ、同時に摂る食品や吸収の状態にも影響されます。食品成分表のmgは、体内で利用されるmgを直接測った数字ではありません。1
欠乏の治療と、一般の疲れへの追加摂取は別
B1欠乏症には、脚気やウェルニッケ・コルサコフ症候群があります。神経や脳への障害に加え、脚気では心臓の機能にも影響が出ることがあります。長期間の摂取不足や、多量飲酒などは、欠乏を考える上で重要な条件です。1 3
一方、疲れやすさや手足の症状には様々な原因があり、症状だけでB1不足と決めることはできません。多量飲酒や食事が十分に摂れない状態が続く人で、意識の変化、歩きにくさ、眼の動きの異常などがある場合は、サプリメントで様子を見るのではなく、速やかに医療機関で評価を受ける必要があります。3
医療では、欠乏や代謝障害が関わる場合にB1やその誘導体の製剤を用います。しかし、食品から摂る量を超えた治療用量の研究を、一般の人の日常的な補充へそのまま置き換えることはできません。2025年版報告書も、疾病の発症予防のための目標量は設定していません。1 3
水溶性でも、上限未設定を無制限の安全性にしない
日本の基準は、B1の耐容上限量を算定するデータが十分でないため、上限を設定していません。通常の食品での摂取と、高用量製品や医療での投与は、条件が異なります。「水溶性で尿に出るから、いくら増やしてもよい」という意味ではありません。1
B1について見るべきなのは、補酵素としての機能、エネルギー消費に対応する基準、食品と体調の条件です。必要な栄養素を確保することを、量が多いほどよいという考え方に変えないことが大切です。