カリウムは、細胞内の水分の状態を保ち、神経や筋肉の働きにも関わるミネラルです。野菜や果物だけでなく、多くの食品に含まれています。健康な人の食事を考える際には、食塩との関係が重要になります。1
ただし、「食塩を減らすこと」と「カリウムを摂ること」は、片方で片方を帳消しにする関係ではありません。また、腎機能によってはカリウムを増やすことが適切でない場合もあります。まず体内での役割を知り、日本の二つの基準を読み分けていきます。
細胞内の環境と、神経・筋肉の働きを支える
カリウムは、細胞内液にある主要な陽イオンです。陽イオンとは、電気的にプラスの性質を持つ粒子のこと。カリウムは体液の浸透圧や酸・塩基の釣り合いを保ち、神経や筋肉が興奮を伝える過程にも関わります。1
浸透圧は、水が膜を隔てて移動することに関わる性質です。細胞の内側と外側で水分や電解質の環境を維持することは、体を動かす前提になります。「余分な塩分を出す成分」という説明だけでは、こうした基本的な役割が抜け落ちてしまいます。
一方、食べたカリウムのmgと、血液中で測るカリウムの濃度は別のものです。摂取した量がそのまま血液中に残るわけではなく、腸からの吸収・排泄、腎臓からの排泄などを含む体内の調節を受けます。体外への損失が大きくなる下痢や多量の発汗、利尿薬の服用などでは、通常の食生活とは条件が異なります。1
目安量と目標量は、何が違う?
日本の2025年版には、成人のカリウムについて「目安量」と「目標量」の両方があります。目的を付けずに数値だけを比べると、どの量を見ればよいのか分からなくなります。1 2
| 指標 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 目安量 | 2,500mg | 2,000mg |
| 目標量 | 3,000mg 以上 | 2,600mg 以上 |
目安量は、不足を避けるための推定平均必要量や推奨量を算出する根拠が十分でない場合に用いる指標です。カリウムでは、体から失われる量を補って釣り合いを維持することを考慮し、日本人の摂取量も参考にして設定しています。1
策定報告書は、平衡を維持する量の研究を検討した上で、日本の食事調査の摂取量はそれを満たすと判断しています。男性は年齢区分を通じて無理のない摂取量として2,500mg/日、女性はエネルギー摂取量の違いを考慮して2,000mg/日としました。つまり、欠乏する人としない人をきれいに分ける検査の境界ではありません。1
目標量は、高血圧を中心とした生活習慣病の発症予防を考える指標です。目安量を満たすことと、生活習慣病の発症リスクを考えて食事を検討することでは、見ている問いが違うのです。1
3,000mg・2,600mgは、どう決まった?
日本の目標量は、研究で検討された量と、日本の摂取実態から実行可能性を考えて算定しています。日本の策定報告書は、WHOが示した3,510mg/日を検討の出発点としていますが、日本人の当時の摂取量よりかなり多いことを指摘しています。1
そこで、平成30・令和元年の国民健康・栄養調査による、地域・性・年齢を調整した中央値2,211mg/日と、3,510mg/日の中間である2,861mg/日を算定の参照値にしました。さらに参照体重による調整、値の丸めと年齢区分間の平滑化を経て、成人男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上としています。1
この成り立ちからも、ある量を1日だけ超えた途端に血圧が下がるという読み方はできません。誰にとっても同じ効果が得られる用量を示した表でもありません。習慣的な食事を検討するための目標です。
バナナ以外にも、食品から少しずつ摂っている
カリウムを含む食品は一種類に限りません。文部科学省の成分表では、バナナ・生100gに360mg、ほうれんそう・ゆで100gに490mg、普通牛乳100gに150mgが含まれます。食べる重さと調理状態を揃えて見ることが大切です。3 4 5
| 食品と重さ | 含有量 | 出典 |
|---|---|---|
| バナナ・生100g | 360mg | 360mg × 1 |
| ほうれんそう・ゆで70g | 343mg | 490mg × 0.7 |
| 普通牛乳200g | 300mg | 150mg × 2 |
バナナは皮を除く可食部、ほうれんそうはゆでた後の可食部、牛乳はmLではなくgで計算しています。生のほうれんそうとゆでたものでは、含有量も食品の重さも変わります。生の値と調理後の重さを組み合わせたり、二つの成分値の差だけで調理による残存率を計算したりはできません。3 4 5
日本高血圧学会監修の公的な啓発資料も、野菜、果物、牛乳・乳製品など複数の摂取源を挙げています。一つの食品だけで必要量を埋めるより、普段の食事の中にどのような摂取源があるかを把握する材料になります。6
食塩との関係は「帳消し」ではなく、両方を考える
厚労省の策定報告書は、カリウムが尿へのナトリウム排泄を促し、食塩による血圧上昇に拮抗する方向へ働くことを説明しています。このため、ナトリウムとカリウムは、それぞれを単独で考えるだけでなく、組み合わせて評価する必要があります。1
ただし、「カリウムを多く摂ったので、塩分の多い食事でもよい」とは結論づけられません。報告書が示す考え方は、ナトリウムを減らすことと、カリウムを含む食品を摂ることを合わせて進めるものです。塩分の数字の読み方は、食塩の目標量を解説した記事で整理しています。1
また、食品や食事を調べた観察研究で見られる関連と、カリウムのサプリメントを追加した効果は区別する必要があります。食事全体の種類やほかの成分、生活習慣も異なり得るためです。カリウムの目標量を、そのままサプリの用量にしてはいけません。
上限がないなら、いくら増やしてもよい?
日本の基準では、カリウムの耐容上限量を設定していません。その判断の前提は、腎機能が正常で、カリウムのサプリメントなどを使わない場合には、通常の食品による過剰摂取のリスクは低いと考えられることです。条件のある説明であり、すべての人への安全保証ではありません。1
腎機能の低下や糖尿病などに伴う高カリウム血症には注意が必要とされています。高カリウム血症は、血液中のカリウム濃度が高くなる状態です。食事の不足を避けたいという理由だけで、医療上の管理が必要な人が自己判断で量を増やすことは適切ではありません。1
医師から腎臓病と言われている場合には、カリウム摂取について医師の指示に従うよう、公的な啓発資料にも明記されています。治療中・服薬中の人は、サプリや食品の大きな変更をする前に主治医・薬剤師へ確認してください。反対に、腎臓病という言葉だけで全員が同じ食品を一律に制限することも、この一般向けの記事では決められません。6
目標量は食事全体を考えるための指標、血液の値や疾患に合わせた管理は診療で判断するものです。この区別を持って食品の量を見ると、カリウムを「多いほどよい成分」として扱わずに理解できます。