ビタミンB12は、赤血球の形成や神経の機能に必要な水溶性ビタミンです。欠乏すると貧血に加え、神経の障害が起こることがあります。鉄と同じく貧血に関係しますが、体内での役割も吸収の仕組みも異なります。1
この成分を理解する鍵は、食べ物に含まれる量だけでなく、胃や小腸で吸収できる条件を見ることです。日本の成人の目安量4μgと食品の数字を、その仕組みから読み解きます。
赤血球と神経に、どう関わる?
ビタミンB12は、コバルトを含む化合物の総称で、コバラミンという名前でも呼ばれます。体内ではメチルコバラミンやアデノシルコバラミンが、酵素の反応を助ける「補酵素」として働きます。アミノ酸の代謝などに関与し、欠乏では巨赤芽球性貧血や末梢神経の障害などが生じます。1
巨赤芽球性貧血は、血球のもとになる細胞の成熟に支障が出る貧血です。葉酸の不足でも起こり得ます。鉄の不足による貧血とは成り立ちが違うため、「貧血によい成分」として三つを置き換えて読むことはできません。1
神経に必要な成分であることも、健康な人が多く補給すれば神経の働きが高まることを意味しません。欠乏を避ける役割と、すでに足りている人へ追加する効果は、別の問いです。
食品からの吸収には、胃の働きと「内因子」が関わる
食品中のビタミンB12は、主にたんぱく質と結合しています。そのまま小腸で取り込まれるのではなく、まず胃酸や消化酵素の作用で切り離されます。そこから結合する相手を替えながら、小腸の下部へ運ばれます。1
- 食品から離す:胃酸や酵素の働きで、たんぱく質に結合したB12が遊離する。
- 結合相手を替える:ハプトコリンというたんぱく質と結合した後、十二指腸で離れ、胃から分泌される内因子に結合する。
- 小腸で取り込む:内因子と結合したB12が、主に回腸下部の受容体を介して吸収される。
胃や小腸、内因子の働きが変わると、食品から十分な量を摂っていても利用しにくい場合があります。また、内因子を介した吸収には限りがあり、一度に含有量の多い食品を食べても、含有量に比例して吸収量が増えるわけではありません。高用量では内因子に依存しない吸収経路もあるため、「一定量以上は全く吸収されない」という説明にもできません。1
体内にはB12の蓄えがあり、胆汁へ出た一部を再吸収する仕組みもあります。摂取量が少ない1日があれば、すぐに症状が出るという単純な関係ではないのです。1
日本の成人は、推奨量ではなく「目安量4μg」
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で、18歳以上の男女のビタミンB12の目安量は4.0μg/日です。μgはマイクログラムで、1mgの1,000分の1。妊婦・授乳婦にも、同じ4.0μg/日が示されています。1 2
この値は、推奨量とは指標が異なります。推奨量をつくるには、欠乏を避けるための必要量の分布を推定する根拠が必要です。B12では、生化学的指標をよい状態に維持する摂取量の研究はあっても、欠乏症を避ける最小量を算出できるという結論には至っていません。そのため、推定平均必要量や推奨量ではなく目安量を設定しています。1
策定報告書は、健康な成人の観察研究で、血中の複数の指標が良好だった集団の平均摂取量が4.2μg/日以上だったことを検討しています。日本人の食事調査も参照し、4.0μg/日としました。この数値を、個人が不足しているかどうかの診断線にしてはいけません。1
高齢者も同じ目安量ですが、同じ吸収条件だと確認された意味ではありません。報告書は、胃酸分泌の低下などによる食品B12の吸収低下に触れつつ、別の量を設定するだけのデータが十分でないことを説明しています。1
菜食・加齢・消化管の状態で、確認する点が変わる
ビタミンB12の不足は、食品から入る量が少ない場合と、取り込む仕組みに問題がある場合を分けて考える必要があります。厚労省eJIMに掲載された米国NIHの資料は、動物性食品を食べない人、胃や腸の疾患・手術のある人などを、欠乏に注意が必要な集団として挙げています。3
| 条件 | 考えること |
|---|---|
| 動物性食品を食べない | 食品からの供給源を確認する。B12を強化した食品などの利用も含め、食事全体で考える。 |
| 胃酸分泌が低下する | 食品のたんぱく質からB12を離しにくくなる場合がある。食品の量を増やすだけで解決するとは限らない。 |
| 内因子の不足や消化管の疾患・手術がある | 供給量だけでなく吸収経路の評価が必要になる。補給方法は診療で判断する。 |
サプリメントや強化食品中のB12は、通常、食品のたんぱく質から切り離す工程を必要としない形です。ただし、これであらゆる吸収障害が解消するわけではありません。特に内因子が不足する場合と、食品からB12を離しにくい場合では、条件が異なります。3
食品のB12量は、食べる重さと調理状態で見る
魚介類、肉、卵、乳製品などが摂取源になります。文部科学省の成分表では、しろさけ・焼き100gに6.0μg、鶏卵・全卵・生100gに1.1μg、普通牛乳100gに0.3μgが含まれます。4 5 6
| 食品と重さ | B12量 | 出典 |
|---|---|---|
| しろさけ・焼き80g | 4.8μg | 6.0μg × 0.8 |
| 鶏卵・全卵・生50g | 0.55μg | 1.1μg × 0.5 |
| 普通牛乳200g | 0.6μg | 0.3μg × 2 |
さけは焼いた後、卵は殻を除いた可食部の重さ、牛乳はgでの計算です。生の食品に含まれる値を調理後の重さへそのまま掛けることはできません。成分表は標準値で、商品や調理による差もあります。4 5 6
また、表の4.8μgを食べたことと、4.8μgが吸収されたことは同じではありません。食事ごとに含有量が変わりやすい成分でもあるため、1日の合計を出すことだけで栄養状態まで判断しないことが大切です。1
貧血がなければ、B12不足ではない?
B12の欠乏による神経の症状は、貧血を伴わずに生じる場合があります。「貧血とは言われていないからB12は足りている」とは決められません。一方、しびれや疲れなどの症状だけでB12欠乏と判断することもできません。気になる症状が続く場合には、医療機関で原因を相談してください。3
検査では、血清B12に加え、メチルマロン酸やホモシステインなどの指標を使う場合があります。B12が関わる代謝が滞ると、これらの値が変化するためです。ただし、メチルマロン酸は腎機能、ホモシステインは葉酸の状態や腎機能などの影響も受けます。検査の方法による違いもあり、一つの値から補給量を自己決定することはできません。1 3
葉酸を多く補給すると、B12欠乏による貧血が改善しても、神経の問題が解決しない場合があります。貧血に関わる成分を自己判断で置き換えず、葉酸の食品・サプリの違いも併せて読むと、二つの成分の関係が分かります。7
上限未設定でも、補給する目的は確かめたい
日本の2025年版では、B12の耐容上限量を設定していません。過剰摂取が健康障害を示す科学的根拠が十分でないという判断であり、多量の補給で利益が増えると確認した意味ではありません。生活習慣病の予防・重症化予防のための量も設定していません。1
エネルギー代謝や神経に関わることから、疲労や認知機能への効果を期待したくなるかもしれません。しかし、B12の必要性から、栄養状態が十分な人への追加補給の効果は導けません。厚労省の報告書も、高齢者のサプリメント摂取が健康の保持に有効かどうかについて、結論に至る研究は十分でないとしています。1
胃酸の分泌を抑える薬やメトホルミンなどは、B12の吸収・状態に影響する場合があります。服薬中の人は食事やサプリの利用を医療者へ伝え、薬を自分で中止・減量しないでください。厚労省eJIMの薬の解説は米国の制度を前提としているため、この記事では日本の処方に合わせた変更方法を示していません。3
食品の含有量は供給の手掛かりになります。その量を体で利用できるか、症状や検査とどう結びつくかまで考えるには、吸収の条件を確認する必要があります。