葉酸は、DNAの合成や赤血球の形成に関わる水溶性ビタミンです。妊娠前後の栄養として知られていますが、男性も含め、すべての世代に必要な成分です。1
数字を読む際には、普段の食品に含まれる葉酸と、サプリメントや強化食品に使われる合成葉酸を区別する必要があります。日本の成人の推奨量240μgと、妊娠前後に望まれる400μgは、同じ目的の数字ではありません。二つの違いから、食品の量と過剰摂取までを整理します。
葉酸は、細胞が材料をつくる反応を助ける
葉酸は、活性を持つ複数の化合物をまとめた名前です。体内では、炭素を一つ含む小さな単位を移す酵素の補酵素として働きます。この反応はアミノ酸の代謝や、DNA・RNAの材料をつくる過程に関わります。1
DNAは細胞が増えるときに必要な遺伝情報を持つ物質です。葉酸が欠乏してDNAの合成に支障が出ると、赤血球のもとになる細胞が正常に成熟しにくくなり、巨赤芽球性貧血が起こることがあります。胎児の発達が注目される成分であると同時に、成人の体内の反応も支えているのです。1
ただし、DNA合成に関わることから、追加補給で細胞の働きや健康状態が一律に高まるとは言えません。必要な成分であること、欠乏を避けること、病気のリスクへの効果は、分けて考える必要があります。
食品由来の葉酸と、合成葉酸はどう違う?
厚労省の報告書は、葉酸全体を表すfolateと、プテロイルモノグルタミン酸という化合物を表すfolic acidを区別しています。後者は主に、サプリメントや葉酸を強化した食品に使われる、人為的に合成された形です。1
通常の食品中の葉酸は、多くが複数のグルタミン酸のつながった形です。消化の過程で切り離され、小腸から吸収され、細胞内で利用される形へ変わります。食品や同時に食べるもの、調理などで利用率が変わり、合成葉酸より生体利用率が低いことが報告されています。ただし、正確な割合の見積もりには幅があります。1
| 摂取源 | 基準を読む際のポイント |
|---|---|
| 通常の食品に含まれる葉酸 | 推定平均必要量・推奨量の対象となる。野菜や豆などを含む習慣的な食事を考える。 |
| サプリや強化食品に使う合成葉酸 | 妊娠前後のリスク低減に望まれる量や、耐容上限量の対象となる。通常の食品と生体利用率が異なる。 |
米国の資料などでは、生体利用率の違いを考慮した「食事性葉酸当量(DFE)」という単位も使われます。日本の食品成分表・摂取基準の数値と、海外のDFE表示を、単位の意味を揃えずに直接比較することはできません。1
日本の成人の推奨量は、通常の食品から240μg/日
2025年版の日本の基準で、18歳以上の男女の葉酸の推奨量は240μg/日です。μgはマイクログラムで、1mgの1,000分の1。これは通常の食品に含まれる葉酸を対象とする値です。1 2
策定報告書は、中長期の状態を反映する赤血球中の葉酸濃度と、欠乏を避ける摂取量の研究を検討しています。約200μg/日を推定平均必要量とし、個人間の変動を考慮する係数1.2を掛けて推奨量240μg/日としました。性差を設ける根拠がなく、65歳以上も同じ値です。1
妊娠・授乳では、通常の食品に含まれる葉酸に対する付加量が示されています。
| 対象 | 推奨量と付加量 |
|---|---|
| 一般の成人 | 240μg |
| 妊娠初期 | 付加量0μg。合計240μg |
| 妊娠中期・後期 | 付加量240μg。合計480μg |
| 授乳中 | 付加量100μg。合計340μg |
妊娠初期の付加量が0というのは、神経管閉鎖障害のリスク低減のための摂取が不要という意味ではありません。上の表が対象にするのは、通常の食品から摂る葉酸です。合成葉酸についての別の指標を併せて読む必要があります。1
妊娠前後の「400μg」は、何のための量?
日本の2025年版は、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性、妊娠初期の妊婦について、通常の食品からの葉酸に加え、通常の食品以外に含まれる合成葉酸を400μg/日摂取することが望まれるとしています。目的は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減です。1 2
神経管は、脳や脊髄のもとになる部分です。神経管閉鎖障害は、その形成・閉鎖がうまく進まないことによる先天異常で、二分脊椎などを含みます。形成に重要な時期が妊娠のごく初期にあるため、妊娠を知ってからの栄養だけでは捉えきれません。厚労省e-ヘルスネットは、通知で示された摂取時期として、およそ妊娠1か月以上前から妊娠3か月までを紹介しています。3
ここでいう400μgは、野菜や豆から摂る葉酸400μgでそのまま置き換えられる量ではありません。研究で主に使われてきた形と、生体利用率を踏まえた指標です。また、通常の食品の推奨量240μgと足した「640μg」を、すべて同じ形の葉酸の必要量として扱うこともできません。1 3
リスク低減は、発症を必ず防ぐという意味ではありません。神経管閉鎖障害には葉酸以外の要因も関わります。妊娠前後の相談では、食事や使用中のサプリ、薬、既往歴を医師・助産師・管理栄養士などへ伝えてください。すでに処方や指示を受けている場合には、一般の基準だけで変更しないことが大切です。1
食品の葉酸は、調理後の重さを揃えて見る
文部科学省の成分表では、ほうれんそう・ゆで100gに110μg、えだまめ・ゆで100gに260μg、糸引き納豆100gに120μgの葉酸が含まれます。これらは通常の食品に含まれる葉酸の値です。4 5 6
| 食品と重さ | 葉酸量 | 出典 |
|---|---|---|
| ほうれんそう・ゆで70g | 77μg | 110μg × 0.7 |
| えだまめ・ゆで50g | 130μg | 260μg × 0.5 |
| 糸引き納豆40g | 48μg | 120μg × 0.4 |
ほうれんそうとえだまめはゆでた後の可食部、えだまめはさやを除いた豆の重さ、納豆はたれなどを含まない本体の重さです。食品や商品、調理によって含有量は異なります。生の値とゆでた後の重さを混ぜて計算しないようにします。4 5 6
合成葉酸を使えば、葉酸を含む食品が不要になるわけでもありません。食品にはほかの栄養素も含まれます。日本の報告書も、合成葉酸を十分に摂っていることを理由に、通常の食品を摂らなくてよいと解釈しないよう注意しています。1
上限は、通常の食品以外の合成葉酸に設けている
日本の成人の耐容上限量は、18〜29歳と65歳以上では900μg/日、30〜64歳では1,000μg/日で、男女共通です。対象は、サプリメントや葉酸を強化した食品などに含まれる合成葉酸です。通常の食品に含まれる葉酸と合計して、この上限にそのまま当てはめるものではありません。1 2
上限の根拠で重視されているのが、ビタミンB12欠乏との関係です。B12の欠乏による貧血がある人に合成葉酸を多く投与し、神経の症状が発現・悪化した症例が報告されてきました。葉酸とB12はどちらもDNA合成に関わり、貧血に関係しますが、互いに代わりになる成分ではありません。1
厚労省eJIMも、葉酸でB12欠乏による貧血が改善しても神経障害は改善されず、欠乏の発見が遅れるおそれを説明しています。上限は摂取を目指す量ではなく、その量以下で誰にでも安全という保証でもありません。複数の製品を使うときには合成葉酸の量が重ならないか確認する必要があります。7
なお、この上限の算定は、最低健康障害発現量に基づくもので、再考を求める意見も報告書に記されています。線を超えた途端に必ず害が起こる、線の内側なら必ず問題がないという境界としては読めません。1
服薬や病歴がある場合は、補給の判断も変わる
葉酸は、一部の薬と相互作用します。例えば、メトトレキサートは葉酸の作用に関わる薬で、治療の目的や用量により葉酸補給の扱いが変わります。抗てんかん薬なども葉酸の状態へ影響し、葉酸の補給が薬の血中濃度へ影響する場合があります。自己判断で追加したり、処方された葉酸や薬を中止したりせず、主治医・薬剤師へ確認してください。7
この記事で使うeJIMは米国NIHの資料の日本語版です。そこにある米国向けの必要量や医療制度を、日本の食品・摂取基準へそのまま転記していません。
葉酸の数字を読むときには、「通常の食品か、合成葉酸か」「どの時期の、何を目的とした量か」を合わせて確かめる必要があります。240μg、400μg、900〜1,000μgは、それぞれが答える問いを揃えて初めて、食事や製品表示を理解する手掛かりになります。