食物繊維は、野菜の「すじ」だけを指す言葉ではありません。小腸でヒトの消化酵素による分解を受けにくく、大腸へ届くさまざまな成分をまとめた呼び方です。水に溶けるものも、溶けないものもあり、同じg数でも体内での働きは一様ではありません。1 2
「水溶性なら腸内細菌、不溶性なら便のかさ」と覚えるだけでは、取りこぼす違いがあります。水に溶けるか、粘りをつくるか、腸内細菌に発酵されるかを分けると、食物繊維という成分の輪郭が見えてきます。3 4
食物繊維は「消化されにくさ」でまとめた成分
日本の2025年版食事摂取基準は、実用上、難消化性炭水化物を食物繊維として整理しています。「難消化性」は、ヒトの小腸で消化酵素による分解を受けにくい性質を表します。体に不要、あるいは何も利用できないという意味ではありません。1
含まれるのは、植物の細胞壁を構成するセルロースやペクチンなどだけではありません。小腸で消化されにくいでんぷん(レジスタントスターチ、難消化性でんぷん)、難消化性オリゴ糖なども含まれます。水に溶けて外からは繊維らしく見えない成分もあるため、食品の見た目や歯ごたえだけでは量を判断できません。3 2
ただし、国や組織によって定義は少し異なります。炭水化物ではないリグニンなどを、植物の細胞壁に伴う成分として含める整理もあります。「食物繊維」は一つの化学物質名ではなく、消化特性と測定方法に基づくまとまりなのです。3
水溶性・不溶性と、粘性・発酵性は別の軸
水溶性・不溶性は、水への溶け方による分類です。それだけで、腸内で起こることの全ては決まりません。FAO/WHOの報告書も、不溶性でもよく発酵されるものがあり、水溶性の全てが糖や脂質の吸収に同じように作用するわけではないと説明しています。4
| 性質 | 何が違う? |
|---|---|
| 溶解性 | 水に溶けるか、溶けにくいか。一般にいう水溶性・不溶性の区別。 |
| 粘性・ 保水性 | 腸の内容物に粘りを与えるか、水分を保持するか。吸収の速さや便の性状に関わる。 |
| 発酵性 | 大腸の細菌がどの程度、どの速さで利用できるか。代謝産物や菌体量に関わる。 |
たとえば大麦やオーツ麦のβ-グルカンは、水溶性で粘性を持つ成分です。果物や一部の野菜に含まれるペクチンにも同様の性質があります。粘性のある食物繊維には、食後の糖の吸収を遅らせる働きが認められています。ただし、食品から取り出した成分の性質を、そのまま全ての食品・製品の同じ効果と読み替えることはできません。3
「水溶性を選べばよい」「不溶性は発酵しない」と二分するより、どの成分を、どの食品の形で摂るのかまで見る必要があります。3 4
大腸では、一部が短鎖脂肪酸とガスに変わる
ヒトが小腸で消化できなかった成分の一部を、大腸の細菌が利用します。この発酵によって、酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸と、ガスが生じます。短鎖脂肪酸は吸収され、体内で利用されます。酪酸は主に大腸の上皮細胞で代謝されます。4
- 小腸を通るヒトの消化酵素で分解されにくい成分が大腸へ届く。
- 一部を細菌が発酵短鎖脂肪酸やガスが生じ、細菌自身の量も増える。
- 吸収と排泄へ短鎖脂肪酸は利用され、残った成分や菌体などは便の一部になる。
このため、「消化されないからカロリーは全てゼロ」とも言えません。厚労省報告書は、有効エネルギーを成分によって0〜2kcal/gと整理しています。食品成分表では計算上2kcal/gを使いますが、一つ一つの成分の利用量が必ず同じという意味ではありません。1
また、発酵は健康効果の保証ではありません。腸内細菌が利用できる成分やその速さは異なり、ガスが増えておなかが張る場合もあります。短鎖脂肪酸が生じる仕組みから、個人の病気の予防や特定製品の有効性まで推定することはできません。1 4
便のかさは、残った繊維だけでできるわけではない
食物繊維が便の量や性状に関わる経路は複数あります。水分を保持する、発酵されずに残る成分が便の一部になる、発酵で増えた菌体が便に加わる、といった経路です。何がどの程度起きるかは、成分の性質によって変わります。3 4
したがって、便秘に対しても「食物繊維なら何でも同じ量で効く」という説明はできません。2025年版報告書は、便秘研究では使う成分や評価方法が異なり、追加摂取によるガス症状の悪化も報告されているため、便秘の重症化予防を目的とする追加は慎重に判断すべきとしています。1
米国NIDDKも、食物繊維を増やす際は少しずつとし、水分の量は体格・健康状態などによって医療者と考えるよう説明しています。ここで日本の基準と米国の摂取量を混ぜたり、水分制限のある人に一律の飲水量を勧めたりすることはできません。便秘や腹部症状が続く場合は、成分の自己追加だけで対処せず、医療機関に相談してください。5
同じ食品でも、測定法が変わるとg数は変わる
食品成分表の数値には、測定できる食物繊維の範囲が反映されます。従来のプロスキー変法と、新しいAOAC.2011.25法では対象が異なり、新しい方法では低分子量の水溶性食物繊維や難消化性でんぷんも捉えます。1 6
厚労省が挙げる精白米のごはん100gの例では、七訂の0.3gに対し、八訂は1.5gです。ごはん自体の食物繊維が突然5倍に増えたわけではありません。また、食品ごとに増加率が異なるため、全食品に一つの換算係数を掛けることもできません。1
こうした違いがあるため、アプリや成分表の数字だけで食品を1g単位で順位づけしたり、測定法の異なる目標量と照らして合否を決めたりするのは慎重に考える必要があります。1
食品の組み合わせと、量の目標をつなげて考える
食物繊維の供給源には、穀類、豆類、野菜、果物、きのこ、海藻などがあります。同じ食品にも複数の成分が含まれるため、「この食品は水溶性だけ」と割り切れるものではありません。食品を組み合わせることは、異なる性質の成分を食事に含める方法になります。3 2
日本の成人目標量は、2025年版で年齢・性別により17〜22g/日以上です。通常の食品に由来する研究と日本の摂取実態を踏まえた目標で、全ての食物繊維の治療量ではありません。WHOの成人25g/日以上の勧告も、食品に自然に含まれる食物繊維を対象としています。1 7
どの年齢に何gが設定され、なぜ日本とWHOで値が違うかは摂取量の解説に、疾病・死亡との関連と介入試験の違いは健康研究の読み方にまとめました。
食物繊維を理解する出発点は、「消化されにくいが、一部は発酵されて利用される」「種類によって働きが違う」という二つです。量の表示を、食品の形・成分の性質・自分の健康状態と一緒に読むことが、食品とサプリメントを同じg数だけで置き換えないための判断材料になります。1 7